SSサンプル/香水

彼女が愛用しているそれを身につけると、彼女がそばにいるような気がする。 

それは私の好む柑橘系ではなく甘ったるいラベンダーの香りだけれど、それが、また一層「そばにいる」と錯覚させてくれて、好き。 


 今日も彼女がそばにいる、幸せ。

 なんて浮かれていると友人が気がつき声をかけてきた。 


 「香水変えたー?」

 「うん、お気に入りを見つけたんだ」 

「そうなんだ。らしくないにおい選んだんだね」 

「らしくないから、いいんだよ」 

「なにそれ、変なのー」 


 私らしい香水を選ぶ必要はない。彼女らしい香水を。 

彼女が愛用している香水を私も愛用したい。 

ただそれだけのことなんだけどなー。もしかして私って変なのかな。

 だとしても、その行動が重いだとか変だとか口出ししていいのは彼女だけ。

 ……まあ、彼女はそんなこと言わないけどね。 


 「ああ、早く会いたいなあ」 


 会えない時間も、私たちの愛は育まれていく。

TATUMI

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